司法書士法人 貝原事務所(沼津市の司法書士)

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在宅介護を受けていた高齢者が鉄道会社に与えた損害の賠償責任

名古屋地裁平成25年8月9日判決(判例時報2202・68)

 

本稿は、掲題判決について、内容をまとめたものです。

掲題判決は、認知症を患ったAさん(自宅でその家族が介護を受けていた)が起こした事故(JR東海の線路内への立入と電車との衝突)により、JR東海が被った損害の賠償を、Aさんの相続人らに対して請求したものです。

判決が出た際には、一般のニュースでも(もっぱら悪い意味で)取り上げられました。

 

先日、勉強会の際に、本判決の控訴審を題材としたテーマのもとに議論をしていたのですが、自分自身の本判決についての理解不足(例えば「介護をしていたAさんの長男の配偶者も賠償請求の対象であった」などの勘違いをしていました。)に気づき、まずは内容を改めて確認しようと言うことで本稿を作成しました。

だいぶ要約しているうえ、厳密さよりも整理のしやすさを優先しています。正確な内容を把握したい場合は、当然ながら原文にあたって下さい。

 

1.裁判の概要

アルツハイマー認知症を患い、「自宅」で介護されていた男性(以下「Aさん」とする。)が、介護していた家族の知らないうちに外出してしまった。

外出したAさんは、近所の駅構内で、線路に立入り列車にはねられ死亡した。

この事故により、列車に遅れが生じる等の損害が発生したとして、鉄道会社が、Aさんとその相続人に対して損害賠償請求を求めた裁判。なお損害として認定された金額は約720万円。

 

2.事案の概要

死亡したAさんは、事故当時、認知症の進行により常に目を離すことの出来ない状態であった(実際に、過去に徘徊事件を起こしたこともあった。)。

親族は、家族会議での決定のもと、Aさんを在宅で介護することとし、介護体制を整備していた(なお、金銭的な面に限れば、Aさんを施設で介護することも十分可能な資産状況であった。)。

上記家族会議においては、長男が主催者的地位にあった。また、Aさんの営んでいた不動産業務も含め、重要な財産の処分や方針決定は長男が行っていた。(裁判所の認定によれば)長男が、いわば成年後見人同様の地位にあったとされている。

実際の介護は、同居しているAさんの妻と、介護のため近隣に居住する長男の妻が担っていた。本件事故の当日は、通所型の介護施設から帰ってきたAさんを妻が見守っており(長男の妻は別の場所で片付け等をしていた。)、妻がちょっとまどろんで目を離していた間に、Aさんが自宅を出てしまった。

 

3.裁判所の判断

(1)Aさんについて

事故当時、責任能力は認められず、従って不法行為に基づく損害賠償責任は負わない。

(2)長男について

長男は死亡したAさんにとって、民法714条1項の法定監督義務者あるいは同条2項の代理監督者と同視しうる監督者であり、監督者として負うべき義務を怠らなかった、あるいは義務を怠らなくても損害が生じたとはいえないことから、民法714条2項の準用により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

第714条

1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

 

(3)妻について

Aさんから目を離さずに見守ることを怠った過失があり、かつ、これを怠らなければ本件事故の発生は防止できたと考えられるから、民法709条により原告の損害を賠償する責任がある。

(なお、家族会議の結果として構築されたAさんの介護体制においては、介護者が常にAさんから目を離さないことが前提とされていた。そして、本件事故の発生の原因となったAさんの外出時には、Aさんの妻が監視を担当しており、にもかかわらず目を離したということをもって過失有りとされている。)

(4)その他相続人について

責任は認められない。

 

4.感じたところ

この裁判に関しては「(事案を詳細に見ていけば)結論としては納得できるものだ」という批評をよく目にします。

しかしながら、概要を見てみれば(あるいはニュースとして取り上げられるようなまとめ方をしてみれば)、「在宅介護をしていた介護者が監督義務を行ったとして、要介護者の生じさせた損害に対する責任を認め、介護者が損害賠償(しかも720万円という高額の)債務を負うこととなった。」となってしまうのでしょう。

結果として、この事案は最高裁判所まで行くこととなりました。

最高裁判所が、どのような理由付けで、どのような結論を出すのか注視したいと思います。